構想中の電子工作でクリック感を擬似的に表現したくなったので、秋月電子通商で購入できるNidecのリニア振動アクチュエーターLD14-002を動かしてみました。このモデルは触覚研究の分野では定番品のようです12が、正式なデータシートは公開されていないため試作と測定をしながら使い方を考える必要があります。

振動アクチュエーターとはバネで筐体に結合された磁石をコイルで駆動するデバイスで、共振周波数近辺でしか駆動できないかわりに小型で高効率な振動が得られます。有名なところではMagic Trackpadは振動モーターを内蔵しており、クリック感を擬似的に表現しています。iFixitの分解レビューを見ると巨大なコイルが見てとれます。Magic Trackpadはかなりキレのよいクリック感を発生させますが、おそらくこれはサイズの大きさからくる余裕でしょう。

1.駆動・測定回路

振動アクチュエーターは小さいとはいえモーターの一種なので、マイコン直結で動かすわけにはいかなさそうです。秋月で買えるモータードライバを探したところロームのBD6211FF-E2が見つかったので、これで駆動してみます。キャパシタは部品箱に転がっていた50V 10μFのMLCCをピンヘッダにはんだづけして使いました。

モータードライバの制御にはAnalog Discovery 2 (AD2)を使います。AD2はUSBオシロスコープ、ロジアナ、電源、任意波形発生器などが一体になった実験装置です。今回はAnalog Discoveryの電源シーケンスと任意波形発生器を使ってLD14-002を制御します。実験に使う回路の全体は図の通りで、電流測定用に10mΩのシャント抵抗と100倍ゲインの計装アンプ(LT1167) を追加しました。

アクチュエーターの消費電力については秋月電子のWebサイトには仕様は掲載されていませんが、過去に引用されたと思われる記述をみると、3.3Vのサイン波で駆動する場合はピークは130mA程度と計算できます。10mΩのシャント抵抗だと130mAを流したときの両端電圧は1.3mVなので、AD2の性能では計装アンプが必要です。計装アンプの回路を毎回ブレッドボードで組むのも面倒なので、計装アンプの基板を組んでおくのもよいかもしれません。

2.駆動波形と電流

振動アクチュエーターは帯域の狭いデバイスなので、クリック感を再現するためにはインパルスのかわりに正弦波を数サイクルだけ送るという方法が一般的なようです3。単に150Hzの正弦波を連続的に入れるだけだと携帯電話のバイブレーターと似たような振動ですが、正弦波のバーストを1.5サイクル程度PWM変換して送ってみるとApple Watchと似た触感が得られました。Apple Watchのハプティックフィードバックはトラックパッドに比べると柔らかで高周波成分に乏しい感じがしていましたが、こうしてみるとサイズの制限からくる帯域の狭さであるようにも思われます。

ドライバ込みの電流はほぼスペック通りに120mA程度流れていました。この程度なら別途キャパシタなどの短期的な電源を用意せずとも問題なくUSBバスパワーで駆動できそうです。

3.フットプリントの制作

デバイスの実物を買ったので、パッド寸法を計測してフットプリントも作っておきます。コンパクトカメラを三脚に固定し、マクロ撮影モードで写真を撮影したあとAdobe Lightroomで歪みを補正してトリミングし、CADに取り込んで寸法を測りました。本当はCマウントのUSBカメラでもあると良いのですが、解像度と部品の平面性が足りている限りはこれで十分です。

外形寸法は別途ノギスで測定します。秋月のスペック表では14.0 x 11.2 mmでしたが、実測結果は14.10 x 11.15mmでした。画像から実測を行うため、取り込んだ画像は実測結果に合わせてスケールします。

まず、取り込んだ画像の寸法を測定します。この段階では対称性や数値丸めは気にせず、画像を忠実に測定します。測定結果を見ると、実物には数十μmの製造誤差があることがわかります。リバースエンジニアリングの難しさは測定結果の背後にある意図を読み取ることにあるというのがよくわかります。

誤差0.1 mm程度は半田で吸収できるので外形寸法を0.1 mm単位で丸め、パッドを構成する長方形の中心基準で作図し直します。KiCadのパッド定義は中心と幅高なので、この状態にしておくのが作図が最も楽です。

完成したフットプリントは印刷して実物と合わせ、寸法が正しいことを確認します。

4.結論

今回利用したような低速なデバイスであれば、比較的安価な類の測定器でも適切に周辺部品を組み合わせることで評価や測定、フットプリントの計測と制作を行うことができました。次回以降は今回のような要素技術の記事を挟みつつ構想中のデバイスの基板を発注し、最終的にRP2040から駆動してみる予定です。